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小公女 (バーネット フランシス・ホジソン・エリザ)

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ね、私、ひもじい苦しみは身に沁みて味っているでしょう。ひもじい時には、何かつもりになったって、ひもじさを忘れることは出来ないのよ

親切な人ってものは、お礼はいわれたくなくても、幸福になったかどうかは、知りたいものよ。

 セエラは部屋に入ると、すぐ戸を閉め、それに背をもたせて、隅々を見廻しました。魔法の神は、留守の間にまたここを見舞ったと見えます。昨夜なかったものまでが持ちこまれてありました。低い食卓の上には、またしても御飯の支度がしてありました。しかも、今日はコップも、お皿も皆二人前そろえてあるのです。炉の上の棚には、目のさめるような刺繍をした布が敷いてあり、二三の置物が飾ってありました。醜いものは、すべて垂帷で隠してありました。美しい扇や壁掛が、鋭い鋲で壁にとめてありました。木の箱には敷物が掛けてあり、その上には、いくつかの座褥が乗っていて、寝椅子の形に出来ていました。

それから、ちょっと自分のお腹の上に手をおいて、
「こん中には、スウプに、サンドウィッチに、丸麭麺が入って行ったんだわ。」と、それだけは確かそうにいいました。

セエラは夢の中の人のように、幸福そうな微笑をたたえながら、

「あの、四つでいいんですよ。私、十銭しか持ってないんですから。」といいました。「二つはおまけですよ。あとでまた上るといいわ、あなたお腹がすいてるんでしょう。」「ええ、とてもひもじいの、御親切にして下すって、ありがとうございます。」

セエラの足を止めたのは、セエラよりも惨めな子供の姿でした。子供の姿は、まるで一塊の襤褸でした。

何かたまらないことがあると、私いつでも一生懸命、自分は宮様だと考えてみるの。『私は、妖精の宮様だ、妖精の私を傷けたり、不快にしたり出来るものがあるはずはない。』私自分にそういってみるの。そうするとなぜだか、いやな事は皆忘れてしまってよ。」

私こう思うのよ。心の職務は、身体が可哀そうな状態にある時、何かほかへ気を向けさせるようにすることだと。

「メルチセデクや、今日という今日は、宮様のつもりも辛かったわよ。いつもどころの辛さじゃアなかったわよ。だんだん寒くなって、往来がじめじめして来ると、私の務は辛くなるばかりだわ。ラヴィニアったら、私が裾を泥んこにしているって、嗤うのよ。私、思わずかっとして、危く何かやり返してやるところだったけど――でも、やっと我慢したの。かりにも宮様が、ラヴィニアみたいな下等な人の相手になるわけにはいきませんものね。

温い気持ってものは、窓とか、壁とか、そんな障碍物を越えて、相手の心に通じるものだと思うわ

好きなものは何でもますます好きになるのが、セエラの癖でした。

あなただって一つの物語だし――私も一つの物語よ

「鼠はきっと辛いに違いないわ、皆に嫌がられて。私だって、皆に嫌がられて、罠をかけられたりしたらたまらないわ、雀は、鼠とは大違いだわ。でも鼠は鼠になりたくてなったわけじゃアないのね。雀の方に生れたくはないかい? なんて聞いてくれる人があるわけじゃアないから。」

雨の日には雨だれの音が、何かいい事を話してくれてるようよ。星の夜は、継布の中にいくつの星が光ってるか、数えて見るの。

「私、そのつもりになるわ。つもりになってると、どんなにまぎれていいかしれないわ。」

「軍人は愚痴なんかこぼさない。」セエラは歯をくいしばりながらいうのでした。

セエラは、今はもう勉強どころではありませんでした。楽しいことは、何も教わりませんでした。忙しい一日がすんでから、古い本を抱えて、人気のない教室へ行って、一人夜学を続けるばかりでした。

料理番や、女中までが、ミンチン女史の真似をして、今まで永いことちやほやされていたこの娘っ子を、いい気持にこき使うのでした。

セエラはいつまでも、初めて屋根裏に寝た晩のことを忘れることは出来ませんでした。夜もすがらセエラは、子供にしては深すぎる、狂わしい悲しみにひたされていました。が、セエラはそのことを誰にも話しませんでした。また話したとて、誰にも解る悲しみではなかったでしょう。

「じゃア、どうか、そのお人形を持ってらしって下さい。私、そんなもの要りません。」 セエラが喚いたり怯えたりしたら、ミンチン女史はセエラをもう少しは劬ってやったかもしれません。女史は人を支配して、自分の力を試してみるのが愉快だったのでした。が、セエラの凛とした顔を見、誇のある声を聞くと、自分の力が空しく消えて行ったような気がして、口惜しくなるのでした。

「クルウ大尉が死んだのさ。一文なしで死んじゃったのだよ。あの気まぐれな我儘娘は、私の居候になったわけさ。」

今まで一番大事な生徒だったセエラは、いきなり乞食娘になってしまったのです。今までセエラのために立てかえたお金は、もう戻してもらう術もないのです。

その親友がダイヤモンド鉱山に夢中になって、大尉の金まですっかりその事業に注ぎこんでしまったのでした。親友が逃げたと聞いた時には、大尉はもう熱病にとりつかれていました。おそろしい打撃だったに違いありません。大尉は昏々と死んで行きました。娘のことを口走りながら――が、その娘のためには、一文も残さずに

「あなたは、いつもありもせぬことばかり考えているのね。」「そりゃアそうよ。私空想ほど面白いものはないと思うわ。空想はまるで妖精のようなものよ。何かを一生懸命に空想していると、ほんとうにその通りになってくるような気がするものよ。

宮様のつもりになる事は、セエラにとって、たくさんのつもりの中で、一番大切なものでした。大切なだけ、人に知られたくないつもりでした。それを、ラヴィニアは今、ほとんど学校中の生徒の前で、嘲ったのでした。

「セエラは、そのつもりになるためには、顔とか持物とかは、どんなでもかまわないっていうのよ。何を考え、何をするかということが、かんじんなんですって。」

もし、私がほんとうの宮様だったら、私は人民に贈物を撒きちらすことが出来るんだけどな。宮様のつもりになっただけでも、皆さんのためにしてあげられることは、いろいろあるわ。

薔薇色の蝶々のよう

「天国は花の咲いた野原ばかりなのよ。微風が吹くと、百合の匂いが青空に昇って行くのよ。そして、皆いつでもその匂いを吸っているのよ。小さい子達は花の中を駈け廻って、笑ったり、花輪を造ったりしているの。街はぴかぴか光ってるの。いくら歩いても疲れるなんてことはないの。どこにでも行きたいところへ飛んで行けるの。それから町のまわりには、真珠や金で出来た壁が立っているの。でも、みんなが行って寄りかかれるように低く出来ているのよ。みんなそこから下界を覗いては、にっこり笑って、そしていいお便りを送って下さるのよ。」

人はふとしたはずみで、いろいろになるものね。私はふとしたはずみから、あんないいお父様の子に生れたのね。ほんとうは私、ちっともいい気質じゃアないのでしょうけど、お父様は何でも下さるし、皆さんは親切にして下さるんですもの、気質がよくなるより他ないじゃアありませんか。私がほんとうによい子なのか、いやな子なのか、どうしたらわかるでしょうね。きっと私は身ぶるいの出るほどいやな子なのよ。でも、私は一度もひどい目にあわなかったものだから、どなたも私のわるい所がわからないのだわね。」

ミンチン女史は、心ではセエラを嫌っていましたが、こんな金持の娘を失ってはならないという慾から、事ご
とにセエラをほめそやして、学校生活をあかすまいとしました。

それから一時間は、セント・ジョンにとって、今まで考えたこともないような楽しい時間でした。午餐の鈴が鳴って、食堂に降りて行くのもしぶしぶなくらいでした。

「あのお人形――歩けるの?」「ええ。どうしても歩けるはずだと思うの。歩けると思ってるつもりなのよ。そう思うとほんとにそう見えるんですもの。あなた、いろんなことのつもりになってみたことある?」

ジュフラアジ先生は微笑みはじめました。先生の微笑は非常に喜んでいるしるしでした。セエラの子供らしい美しい声が、自分の母国語をこうまで率直に、可愛らしく語るのを聞いていると、まるで故郷にでもいるような気がするのでした。暗い霧のロンドンにいると、いつもは故郷が世界のはてのように遠く思われるのでしたが。‥

お人形ってものは、何だかいくらお話しても聞いてないような顔しているから

家にあるものは何もかもぶざまでした。椅子も、絨氈の模様も、真四角で、柱時計まできびしい顔つきをしていました。

父はその実ちっとも諦めてはいなかったのでしたが、セエラにそうと知らしてはならないと思いました。妙におどけた小さいセエラは、父にとってこそ、なくてはならぬ伴侶だったのです。






最近読んだ本の中で一番引き込まれた作品でした。それもそのはず、すごく有名なおはなし。
なにが個人的に面白かったかというと、セエラの幼いながらの気高さと、セエラなりの「つもり」の哲学。

ぼくも最近、仕事で暇があるときはセエラに倣ってよく妄想をしているのですが、頭の中で描いたものが鮮明であればあるほど、たしかに現実になっている実感があります。

きっと子どものころ読んでいたら、理解できなかったであろう、セエラの哲学、大人になった今、すごく勉強になりました。


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Hiro

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読んだ本の記録。忘れたくない言葉。

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