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ゲテ魚好き (火野 葦平)

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しかし、ドンコ釣りを躊躇させる一時期がある。ドンコほど夫婦愛が深く、また、父性愛の強いものはない。産卵期になるといつもアベックだが、卵を産んでしまうと、雌はどこかへ行ってしまう。あとを守るのは雄だ。卵のところを離れず、いつもヒレを動かしながら、水をきれいに交流させる。外敵が来ると、これとたたかう。試みに、私は指を水中の卵のところへさし入れてみた。すると、父親ドンコが頭を指にぶっつけて来て押しのけようとする。それでも、なお指を近づけようとしたら、パクリとかみつかれた。こういうけなげな姿を見ては、釣る気にならない。

ドンコは甘露煮のように煮つめる場合が多い。そこで、釣ったドンコたちを生きたまま鍋に入れる。醤油をかける。すこし砂糖をまぜる。ガスにかける。火をつける。ドンコたちはここまでされても落ちつきはらっている。まだなんとかなると思っているのである。しかし、火がついて、下からそろそろ熱くなって来ると、ようやく、これは一大事というように騒ぎはじめるのである。しかし、もう追っつかない。そういうところが、どうも自分に似たところがあるので、私はドンコが好きで、棲家をも「鈍魚庵」とした次第である。

河豚も醜魚だが、ドンコもあんまり恰好がよいとはいえない。しかし、味はなかなかよくサシミにしても食える。

鯉はマナイタの上にのせられると動かなくなるといわれているが、それは覚悟を定めての上で、ドンコのようにどうされるのか知らないのとは、精神に雲泥の差がある。

ドンコはいくら下手でも、女子供でも、年よりでも釣れる。それはいくら釣りそこなっても、とにかく釣りあげられるまではエサに食いつくからだ。

ドンコ釣りなどは、ゲテ魚好きの私たち以外にはやらないかも知れない。第一、ドンコは南方の魚で、日本では大体、琵琶湖から西方のみに棲息している。ダボハゼに似ているので、関東方面でもドンコを見たという人があるけれども、学問的にもいないことが証明されている。

エモノのタコを東京に持って帰り、友人の宇野逸夫に話したところ、彼は自分の故郷では、イイダコは赤い色のついたもので釣るという。宇野は隠岐の島出身、つまり日本海である。すると、太平洋のタコは白好きで、日本海のタコは赤好きなのか。きっと、ソ連側だからだろう、などと笑いあったが、魚にそれぞれ好みの色のあるのは疑えない。ボラなども、赤いものなら、風船でも、布でも、なんでもよい。これもエサはいらず、赤に寄って来たところを引っかけてあげるのである。

細い板の上にそれらのどれかをくくりつけ、先の方に三本ほど、内側にまくれたカギバリをとりつける。そして、オモリをつけて沈めておくと、タコはその白いものに向かって近づいて来る。食べに来るわけではなく、どういう考えか知らないが、白いものの上に坐るのである。腰かけるのかも知れない。

イイダコはあまり深くない砂地のところにいるが、エサはなにもいらない。なんでもかまわないから、白色のものさえあればよい。ネギの白味、豚の白味、茶碗の欠片、白墨など。

河豚は生きているのを料理するよりも、死んで一日か二日経ってからの方がおいしい。
河豚釣りに行っても、普通の魚のように、釣りあげてすぐ、船の上でサシミにしたり、焼いたり煮たりなどしては食べないのである。食べる人もあるが、それは食通とはいえない

釣りあげられた河豚は腹を立てて、まん丸く、フットボールのようにふくらんだ。これを船底にたたきつけると、パチンと腹の皮が破裂する

河豚のおいしいのは十二月から一月までである。十月ごろから食べはじめ、三月のいわゆる菜種河豚でおしまいにするが、なんといっても正月前後がシュンだ。

河豚は一枚歯で、すごく力が強く貝殻でも食い割ってしまう。したがって、海底での貝の身をエサにしている河豚の味がよくなるわけだが、この河豚を釣るのはそう簡単ではない。ソコブクの一コン釣りといって、名人芸の一つにされている。私もしばしば試みたけれども、十数回のうちで、たった一度しか成功しなかった。

河豚は水面と海底との中間を泳いでいるし、食い意地が張っているので、エサをつけた糸をたらすとすぐに食いつく。しかし、ほんとうにおいしい河豚は、海底深くいる底河豚だ。

河豚が魚の王で、下関がその産地であることは有名だが、別に下関付近でとれるためではない。下関が集散地になっているだけで、河豚は瀬戸内海はもちろん、玄海灘でも、どこの海でもとれる。東京近海にもたくさんいる。ただ、周防灘の姫島付近の河豚が一等味がよく、いわゆる下関河豚の本場となっている。(因に、九州では、河豚をフグと濁らず、フクと澄んで呼ぶ)

どんな下手が釣っても、すぐにかかる魚は河豚とドンコである。





ドンコのお父さんのお話を見た瞬間、キュンとしてしまいました。
そして、魚にも守るべきものがあるんだなぁ、人間と変わらないんだなぁ、と思いました。
そんなことをちゃんと知っておいて、これから大事に食べていきたいものですね。
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読んだ本の記録。忘れたくない言葉。

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