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庭をつくる人 (室生 犀星)

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好みは人間をつくるもの

寂しさにすぐれた人間の心もつき詰めてゆくと、石庭の精神でなければならぬ。わたくしは重い曇天の下で、蹲まり睨み合い、穏かにも優しいかれらの姿を一瞥したとき、すぐ或る種類の人々の心を覗き見た感じをもった。

水をやらない癖にして置けばそのまま苔になるのである。苔は肌のこまかいほどよいとしてあるが、山苔日苔の肌の荒いのは一層の荘重を感じさせるものである。総じて庭は石と苔との値が深ければよい

苔は日苔といい打水をしないでも蒼々としているのをわたくしは一番に好んでいる。山にある苔である。暑い日には乾いたままで蒼く、へいぜいは水をやらないで折々の雨を待つか或は一週一回ぐらいの水でよい。がっしりした苔である。大庭などはこの苔の方がよい。

飛石は丁々と畳んで行くいきで、庭の呼吸をつがせるようなものである。これの打ち方で庭ぬしの頭のほどが窺い知られるものである。飛石は何処まで打って行っても止まることを知らず、もう一枚、もう一枚というふうに先きを急ぐものであるから、止めをよほど抉り利かして置かなければならぬ。わたくしは飛石は庭を鎧うているものであることを熟々感じている。

石は二ツ接、三ツ組、五ツ組とか言い秘伝のようなものがあるそうであるが、わたくしは勝手に組めばいいと思っている。しかし物には釣合というものがある。その釣合以上の何ものかがわたくしたちを打ってくれればいいのである。一つ置いた石が物足りなさそうにしている態が見え、友ほしそうである。或いは寂寞に耐えない風姿をしている。それを見抜いてやることも我々の心である。何かかれらにも感情があり、一つきりで立てないときにはも一つ石を接ぐのもいいだろう。

石は庭ぬしの悲しい時は悲しそうな表情をして見せ、機嫌よいときはかれも闊達で快然としていた。

或いは夜来の雨じめりでぬれたのが、空明りを慕うているさまは恋のように仄かなものである。それが飛石であるときは踏みかねる心をもつ。朝の間は石の心も静まっていると見えるからである。

石は絶えず濡れざるべからずというのは、春早いころがその鋭さを余計に感じる時であるからであろう。水の溜まる石、溜まるほどもない微かな中くぼみのある石、そして打水でぬれた石は野卑でなまなましく、朝の旭のとどかぬ間の石の面の落着きの深さは譬えようもなく奥ゆかしい。

石が寂しい姿と色とを持っているから人間は好きになれるのだが、反対のものであったら誰も石好きにならないであろう。その底を掻きさぐって見たら石というものは飽かないものであるからである。さびは深く心は静かである。

わたくしは世に石ほど憂鬱なものはないと思うている。ああいう寂しいものを何故人間は愛で慕うのであるか。

程よい見馴染の快いものでなければならぬ。

つくばいの品格は最も秀れたものでなければならず、形は大きくも小さくもない、

兼六園の池のきわの手洗いは大石であるが、三抱えくらいの椎の大樹の根元にしっかりと置かれ、雄心を遣るに豪邁であった。わたくしはまだこれほどの大樹の根元に置かれた手洗いを見たことはない。

主としてつくばいは朝日のかげを早くに映すような位置で、決して午後や夕日を受けない方を調法とする。水は朝一度汲みかえ、すれすれに一杯に入れ、石全体を濡らすことは勿論である。その上、青く苔が訪れていなければならぬが、一塵を浮べず清くして置かなければならぬ。口嗽ぎ手を浄めるからである。

わたくしは蹲跼(石手洗い)というものを愛している。形のよい自然石に蜜柑型の底ひろがりの月がたの穴をうがった、茶人の愛する手洗石である。庭のすみに置くか、中潜りの枯木戸の近くに在るものだが、此のつくばいの位置は難しくも言われ、事実、まったくその位置次第で庭相が表われやすい

つくばい(手洗鉢)の水だけでもよいのである。乾いた庭へ這入ると息づまりがしてならぬ。わたくしたちが庭にそこばくの水を眺めることは、お茶を飲むと一しょの気持である。

水というものは生きているもので、どういう庭でも水のないところは息ぐるしい。庭にはすくなくとも一ところに水がほしい。






水が生きている、とは新しいモノの見方でした。

それにしても、日本の庭ってこんなにルールというか、深く掘り下げれば掘り下げるほどおもしろいんですね。
今まで単純にきれいだなぁ、なんて見てきたものが、こんなにもこと細かく計算されたものだなんて思いもしませんでした。

でも、庭が趣味とはいいものなんでしょうね、きっと。
あこがれます。

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Hiro

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読んだ本の記録。忘れたくない言葉。

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