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蜜柑 (芥川 竜之介)

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世間は余りに平凡な出来事ばかりで持ち切っていた。

この隧道の中の汽車と、この田舎者の小娘と、そうして又この平凡な記事に埋っている夕刊と、――これが象徴でなくて何であろう。不可解な、下等な、退屈な人生の象徴でなくて何であろう。

煤を溶したようなどす黒い空気

彼等は皆、この曇天に押しすくめられたかと思う程、揃って背が低かった。

するとその瞬間である。窓から半身を乗り出していた例の娘が、あの霜焼けの手をつとのばして、勢よく左右に振ったと思うと、忽ち心を躍らすばかり暖な日の色に染まっている蜜柑が凡そ五つ六つ、汽車を見送った子供たちの上へばらばらと空から降って来た。私は思わず息を呑んだ。そうして刹那に一切を了解した。小娘は、恐らくはこれから奉公先へ赴こうとしている小娘は、その懐に蔵していた幾顆の蜜柑を窓から投げて、わざわざ踏切りまで見送りに来た弟たちの労に報いたのである。

私はこの時始めて、云いようのない疲労と倦怠とを、そうして又不可解な、下等な、退屈な人生を僅に忘れる事が出来たのである。

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人生にいささか飽きている人間に一番効くのは、現実に起こる無垢な暖かさのある出来事なのだなぁと思った。
やっぱり人はどこまでいっても人で、暖かいものに触れると心が本能的に動いてしまうものなのだろう。




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Hiro

Author:Hiro
読んだ本の記録。忘れたくない言葉。

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