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ぼくの小鳥ちゃん(江國香織)

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雪の町の匂いがした

ふりむくと、窓枠に小鳥ちゃんがおっこちてきた。不時着。

不満そうにぴちゅぴちゅ鳴いて

「ふうん、そうなの」
小鳥ちゃんは、さもばかにしたように言う

「そうはおもわないわ。あたしの好きなたべものはそういうのじゃないもの」
「もっとなめらかで、とろっとして、ラム酒の匂いがするの」
「ラム酒がかかってるの」

できるだけたくさんときどきにする

小鳥ちゃんの寝息は小さくてウエハースみたいにかるい。
寝息に合わせ、小鳥ちゃんの小さくてあたたかなからだはごくかすかに上下して、そのたびに掛け布団がわずかながらもちあがる。

散歩にでてるすでないかぎり、むろん小鳥ちゃんはデートにもついてくる。
「とうぜんでしょ」小鳥ちゃんはいう。
「あたしはあなたの小鳥ちゃんなんだから」

「身も心もかけねなしにからっぽっていうかんじ」
それで、ぼくらはその夜、かけねなしにおいしい中華料理をたべにいった

---あなたはうけいれすぎるのよ。
小鳥ちゃんはぼくの目をみずにそう言った。
----いけないことかな。
------ときどきとても淋しくなるの。

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ウエハースの椅子 : 江國 香織

uehaasunoisu.jpg

恋愛、記憶、絶望。



・私は無口な子供だったが、それは、自分をまるで、紅茶に添えられた、使われない
 角砂糖であるかのように感じていた。
 役に立たない、でもそこにあることを望まれている角砂糖でいるのが。

・彼は私の首と左の乳房を好きだと言い、私は彼の唇が、そこにおしあてられるのが
 好きだ。

・永遠に死なないことにする

・死は、残った者たちの新しい生活をつくる。

・私たちはみんな、神様の、わがままな赤ん坊なのだ。

・帰り道、私は注意深く、来たときと別の道を選んで帰る。
 上手く一人に戻れるように。

・人はなんだって子供を小学校に通わせたがるのだろう。
 何をするにも2列に並ばされ、隣の子供と手をつながされた。
 とびたくもない跳び箱をとぶために、「勇気」をだすよう求められた。

私は仕事で人に会うのが好きだ。恋人がいなくてもちゃんと一人でやっている、
 という気になる。


・幸福な体温

・肌は深い森の匂いがする

・ウエハースの椅子は、私にとって幸福のイメージそのものだ。目の前にあるのに、
 そして、椅子のくせに、決して腰をおろせない。

・世の中はどこもかしこもメッセージで溢れているので、なんだかうんざりしてしまう

子どもの頃、果物屋になりたいと思っていた。果物の、色や匂いや形に惹かれた。
 味ではなく。私にとって大切なのは、フォルムや重みや質感。


・「あなたって、悪い夢みたい」
 私は、自分が恋人の人生の離れに間借りしている居候のように感じる。
 彼のオプションのように。

・「お前は渾身の力を込めて泣くな」
 「まるでこの世の終わりみたいだな」

・誰かをどこかに閉じ込めるなら、そこが世界のすべてだと思わせてやらなければ
 ならない。

いつまでだろう。私はこのひとを、いつまでそんなふうに錯覚させておけるのだろう。

・「過不足はないわ」
 「あなたといると、何の過不足もない」
 何の過不足もない、ということは、それ自体何かが欠落しているのだ。

・みちたりた絶望

・恋をした人間を助けることは、誰にもできない。

・信じ切っていなければ、愛に意味などないことを知っていた。

・いきどまりだ、

・おいで、

子どものころ、なにが苦痛だったかといえば、時間が無限で途方もないことだ。

・見馴れぬ男の身体は、単純に不思議だった。私はそれをしげしげと見て、
 こわごわ触った。知らない街を歩くのに似ていた。
 ゆうべの出来事を性交と呼ぶのなら、普段私が恋人としていることは、性交では
 ないのだろう。すべてのあと、私はふいに空々しいキモチになった。
 男が、はやく帰ってくれればいいと思った。
 とりたてて後悔はしていなかった。ただ、自分がまぬけになったような気がした。




絵國さんの描く登場人物は、実際に存在していそうで、存在し得ないような人たち。
ぼくにとってそこが彼女の小説の中で一番魅力的なところ。
現実を見ているようで、夢を彷徨っているみたいな感覚になれるから。気持ちがいい。


この本は不倫における幸福と行き止まり感がよく描かれていると思う。
正直、著者の本はたくさん読んできたけど、これはトップ3に入るすばらしさだった。(あくまでぼくの中だけど)

特に子どもの頃の回想が印象に残った。
ぼくも子どもの頃、時間がありすぎてうんざりしていたから。
もっと一日が早く終わればいいのに、って思うくらいに。
なんでだったんだろうと今考えると、子どもの頃って目標が何もなかったからだと気付く。
あの頃ぼくは、ただ、生きているだけだった。

そう思うと、今はすごく幸せである。
やりたいことがあるし、未来のことを考えると楽しくなるし、頑張らなくちゃと思うから。

でも、そういう自分になれたのも、子どもの頃の怠惰な自分がいたからだというのは明白。
だって、すごく時間を無駄にしていたんだ、と思ってしまうから。取り返さなくちゃ、って。



なんであれ、素敵な小説でした。



雨はコーラが飲めない : 江國香織

amehacoola.jpg


愛犬「雨」と著者の好む「音楽」のエッセイ。



・私たちは、よく一緒に音楽を聴きます。べつべつの思惑で、べつべつの気分で、
 でも一緒に音楽を聴くのです。

・基本的に、強烈なものがすきなのだ。犬の体温が人間の体温より高いことと、
 それは関係があるのかもしれない(し、ないのかもしれない)。

・カーリー・サイモンの小ざっぱりした歌い方は、それぞれの曲のオリジナルより
 よかったりもする。一曲ずつが、特別で小さな石みたい。

・雨は臆さず媚びていた。本気で。

・ベイシティローラーズのファンーーーチェックのえり巻きをまき、
 キットカットを毎日食べて太っていた

・どうしてだろう。クイーンのアルバムは、こっそり聴く。
 誰かが遊びに来てくれたときにかける音楽には絶対選ばない。

・たしかに草は野蛮だ。野蛮で傍若無人。ちょっと目をはなすと、そこらじゅうに
 生えて自由に王国をつくってしまう。

・シンニード・オコナーは好き。あの鍛えられた肉体とスキンヘッドのシンニードが
 消え入りそうに「Am I not your girl?」と歌うのなど聴くと、もうやられる。
 心細い少女を、彼女はあの鍛えられた身体のなかにひそませている

・メリー・コクランの声の魅力ーーウイスキーでうがいをして育ちました

・尾崎紀世彦「今・今・今」

・重要なのはパワーアップだと思う。年とともに技術をアップさせる人はたくさん
 いるけれど、パワーをアップさせられる人は少ない。

・ほっとくと、雨はすぐ使用後のモップみたいになるから。

・かわいそうに。ケモノなのに「歯磨きロープ」なんか食べさせられて、シャンプーの
 あとで「OH MY DOG(犬用オーデコロン)」なんかつけられちゃって、かわいそうに。

・秋になると、スザンヌ・ヴァガ的なものがほしくなる。

・「一緒がいいね。嬉しいね」

・歌詞には、さすがに時代が色濃く漂っている。「ナイスミドル」とか「お好きにせめ
 て」とか。

・雨にとって、空はたぶん遠すぎるのだ。

・ショーン・コネリーの声は、歌うというより語っていて、ひとつの物語みたいに
 美しい

・「まったりする」のにふさわしい音楽は何だろう、と考えて、スウィング・アウト・
  シスターを選んだ。あの気だるいーでも乾いた曲調とヴォーカル

・シャデーのジャジーは夜を思わせる。私はそのへんが苦手だ。
 やや重いというか、曲に寄りかかられるというか。
 スウィング・アウト・シスターは、しゃきっと立っている。

・リサ・ローブ。かわいいけれど温度の低い、意志的な、しっとりした声の魅力は
 あいかわらず

・音楽を聴くためには自分の人生がいる。
 勿論たいていの愉しみには人生がいるのだけれど、音楽の要求するそれが、いちばん
 根元的だなと思う。

・テープを作る、という行為を、最後にしたのはいつだっただろう。なつかしいけれど、
 いまそれをする熱意はないなぁ、と考える。

・なんとなく認めるのが不本意だが、私の場合、二十代前半は世界や他人に気を許せな
 いぶん、音楽や映画や小説に圧倒的に傾いていた。そのころになぐさめを与えてくれ
 た音楽は、いま聴くと、そのころとはたぶん違う意味で、しずかな勇気を与えてくれ
 る

・この数ヶ月で、雨はほとんど視力を失ってしまった。
 そして、私と雨は、もう目が合わない。

・世良公則のどこがいいかといえば、彼の声は楽器というよりいっそ音楽そのものだ。

・「世良さんのギターって礼儀正しいの」

・深夜2時の部屋のなかというのは、スタンダードのバラードを聴くのにぴったりの
 場所だ。

・清潔に甘い声をしたステイシー・ケント

・スタンダードというのはスタンダードだから安心なわけではちっともなく、
 聴くたびに、いっそびっくりするほど、ゼロから安心させてくれるものだから
 スタンダードなのだ

・「きちんとしているよね。名曲をぱりっとさせようとするなんて」

・雨には、でも誕生日という概念がない。誕生日を記念しないばかりじゃなく、
 理解もしない。

・私は言葉に依存しがち

・音楽も、言葉には依存しない。歌詞がいい、というのはいわば付加価値であって、
 音楽としての力には、それは関係のないことだ。

・朝の台所に、ケリ・ノーブルはとてもぴったりな感じだった。
 安定したピアノの音も、曲のためにあるみたいな声と言葉の空気感も。




それぞれの歌い手の形容の仕方がとってもおもしろい。
ぱりっと、とか、しゃきっと、とか。

たとえばスウィング・アウト・シスターの表現の仕方。
「そう!まさにそう!」と読みながら唸った。自分では言葉にできなかったから。

こうして考えると、音楽を文学的に捉えたことがなかったことに気付く。
だから読んでておもしろかった。



「雨」との触れ合いは、とても微笑ましい。
視力を失ってしまった雨と自分を冷静に慎ましく綴る著者の文に、
悲しい場面ではなく、あくまで日常的な匂いが漂っていて、そこがよかった。とてもやさしかった。


パンプルムース! : 江國香織

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江國さんの子どもに贈る無駄の詩。


「かけっこはきらい」
 あたしはきょうそうばじゃなくて
 メリーゴーランドのうまなんだと
 おもうの

・「あめのひ」
 あめのひは
 ひるまからでんきをつけるでしょ
 ぼくはそれが
 きらいなんだ

・「パンプルムース!」
 グレープフルーツのことを
 フランスごでは
 パンプルムースっていうのよ
 きのうまでのわたしはしらなかったけど
 きょうのわたしはもうそれをしってる

・「おとな」
 あさごはんっていうものは
 みているだけのほうがきれいね

・「へいき」
 すすめ すすめ
 じゃんじゃん すすめ
 どんがら どんがら すすめ

・「コップがひとつあります」
 コップにいれると
 のむものはみんな
 コップのかたちに なる

・「すみれ」
 よのなかには たくさんおばあちゃんがいるものね
 わたしにもおばあちゃんがいて
 かのじょはすみれのはなににていたわ
 よのなかのおばあちゃんは みんなすみれのはなににているのかしら

・「おさけのみになるほうほう」
 すてきなよっぱらいをみること
 ゆかいはすてきとしること
 からだをおんがくでみたすこと
 せかいはすてきとしること

・「これだけはおぼえておこう」
 つつじのみつをすうときは すいっ と
 ちょうちょをつかまえるときは ぱっ と

・「おはか」
 ここにねむっているのは ごせんぞ
 いっぱいいるから
 つちのなかはにぎやかかもしれない

・「あかるいからだのなか」
 からだがちいさくやぶれている
 ちがでたらすてきね
 ひふのしたで
 おがわのように
 ざあざあながれている ち

・「よのなか」
 それらぜんぶを たしかめよ わたし

・実物に出合う前に言葉に出合うこと、永遠にのめない「ぶどう酒」のある人生は、
 ない人生よりずっと愉しいということ。
 





最後の江國さんの解説にもあった


永遠にのめない「ぶどう酒」のある人生は、ない人生よりずっと愉しいということ。


これ。すごい素敵だ。




25歳の自分が読んでも、やっぱり著者の本。子どもに向けて書いているのに、うっとりしてしまうのだった。


いつだって どんがら どんがら 進みたいし、
ぼくのおばあちゃんも すみれいろ。
きのうまでのぼくはしらないことがおおかったけど
いまはきのうよりおおくのことをかくじつにしっている。



無駄が美しいこと。無駄なものが人生にとって大切なことを教えてくれる本。

いわさきちひろさんの暖かみのある独特の世界観を持つ絵も素敵だった。



デューク : 絵國香織

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文・絵國香織、画・山本容子の大人の絵本。



・匂やかな風

・デュークはとても、キスがうまかった。

・次の日も、私はアルバイトに行かなければならなかった。玄関で、みょうに
 明るい声で”行ってきます”を言い、表に出てドアをしめたとたんに涙が
 あふれたのだった。

・12月の、しかも朝っぱらからプールに入るような酔狂

・今度は私が、”いいところ”を教えてあげる番だった。

・銀座、ゆっくりと夜がはじまっていた。







山本さんの画がいい。
寂しさがこぼれてる。でも、あたたかい。


一読するだけで、絵國さんらしさがわかる文体もいい。





自分自身、子どものころ、ペットを目の前で失ったことがある。
そのとき、どうしようもなく泣いた。ただただ泣いた。

命の大切さと儚さを同時に知った思いだった。

それ以来、僕の親は「大きなペットを飼うのは死んだときかわいそうだから。」と
飼うのを避けていた。
僕の心境も実際そうだった。



でも、それでも最近は生の喜びを生きているうちに
十分に浴びていたいとも思う。

誰しも死ぬために生きているようなものだけど、それだけの価値が動物と生きることにあると思う。



あったかかった。

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Hiro

Author:Hiro
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